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the vernal sunshine

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【長編/切ない系】初恋 -1-

――こいつに女なんか感じてないから、候補にも入ってないよ。

小学生の頃、隣に住んでいる男の子に言われた言葉。
最初から解ってはいたけど、本人の口から告げられたソレは私の心を深く深く突き刺して抜けない棘となった。
あれから十年。
私はどうしようもない馬鹿で、決して叶わないと解っているのにその男の子の優しさと温かさに恋することを止めることは出来なかった。


「お疲れ様でした」
「お疲れ、気を付けてな」
「お疲れ様」

部活が終わった夕暮れ時、着替えを終えて荷物を持った私は部室の扉に手を掛けて未だ残っている先輩後輩に声を掛けてから外へ出た。
冷たくなり始めた風が夏の名残を洗い流す初秋、私は部活用の大きなバッグを斜め掛けしようと持ち上げた所で横から伸びてきた手にそれを取り上げられ慌てて振り返る。
そこには眉間に皺を寄せ、精悍な顔を僅かに歪ませた幼馴染、堂上篤樹(どうがみしげき)が立っていた。

「帰るぞ」

右肩に私の荷物、左肩に自分の荷物を掛けた篤樹が私に声を掛けてから背を向けるのを見ながらズキリと心が痛むのを感じる。
なんで? どうして? 私を女と思ってない癖になんで女の子扱いするの?
先に歩き出した篤樹の後を追うことが出来ず立ち尽くす私に気付いたのか振り返って早く来い、と視線だけで訴えてくる様子にきゅっと解らない様に唇を噛み締めてからゆっくりと歩き出す。
最近、篤樹のことがさっぱりと解らない……。

「なんで待ってるのよ」
「危ないだろうが」
「あんたには関係ないじゃない。第一、痴漢は制服マジックで引っ掛かってくるだけで普段は遭わないし、学校でだって誰一人私の事を女として見てないわよ」
「そんなことはどうでもいい」
「良くない。そもそも、あんた彼女居るでしょうが。なんで彼女と帰んないのよ」

正門を出る頃には歩調を緩めた篤樹といつもの速度で歩き出した私の歩調は揃って二人並んで歩いている。当然の様に篤樹は道路側を私を庇うように歩いていて、それに気付くとまた複雑な感情が胸に込み上げる。

――あんたが一番、私の事を女として見てないはずなのになんでそんな風に女の子扱いするの?

そう、問いかけることが出来たらどれだけ楽か知れないけれど、その答えすら聞くことが怖くて口に出来ずにいる。いっそ告白することが出来ていたら、とどめを刺して貰っていたら、もう少し気持ちを切り替えることが出来たのかもしれない。
そうは思っても、告白をしよう、諦めよう、そう思った時にタイミングよく彼女を作ったのは篤樹であり、その彼女を紹介されて仲良くしてくれと頼まれてしまっては逃げることも砕けることも出来なかった。
しかも、多分、篤樹の彼女は私の気持ちに気付いている。気付いていて、何も言わずに黙って微笑んでくれている。それが優しさなのか優越感なのか私には見抜くことは出来ないけれど、余計に身動きを取れなくしているのは間違いない。

「梓はあいつの兄貴が迎えに来た。今日は家族で食事に行くんだと」
「何それ……フラれた代わりってこと?」
「……そういうことにしとけ」

私なんかと違って壊れ物を扱うように優しくしているだろう彼女を引き合いに出したのに、まったく表情が動かない篤樹は淡々と彼女の予定を告げてくる。だろう、というのは私が避けているために彼女と過ごす篤樹の姿を見たことがないためだ。だから、というわけではないが嫌味の様に目の前でお兄さんに掻っ攫われたのかと思って問い直せば何とも言えない表情で私を見て、深いため息を吐いてから投げやりな返事を返してきた。
本当に解らない……何より、彼女が出来たなら私の事など放っておけば良いのに篤樹は一向に変わらない。私にはそれが辛いのに、拒否することも出来ない。

「あーあ、私も彼氏、探そっかな」
「……誰か気になる奴が居るのか」
「えー? そりゃ、居ないけど。何よ、嫌味!」

ぽろっとこぼれたのは本音だった。これ以上、叶わない恋に泣くくらいならいっそ全く違う男の人に委ねたら忘れられるかもしれない。それが逃げだとは解っていても、それを願うくらいには心に刺さったとげは深く、深く、あの時からずっと血を流し続けている。
小学生の頃抱き始めた淡い想いはきちんと成長する前に致命傷を与えられたのに、傷を負ったままそれでも日々成長している。殺すことも止めることも、ましてや捨てることも出来ない上に篤樹には伝えることが出来ない想いなのに、チラリと篤樹とは違う男性の存在を思い浮かべようとしただけで不機嫌そうに聞いてくる様子が少しだけ嬉しかった。たとえ次の瞬間に彼女が居ることを思い出して虚しくなった自分に気付いても、だ。
けれど、それを悟られるわけにはいかなくて誤魔化す様に悪態をついて舌を出すと僅かだけ苦笑を浮かべた篤樹に頭を小突かれた。じゃれ合いの様なことをしながら帰る道は昔から変わらない、私の大切な宝物。

「じゃあな。宿題、ちゃんとやれよ」
「解ってるって! わかんなかったら聞きに行くから起きててよ」
「お前なぁ……来るなら早めに、夕飯食ったらもう見てやらん」
「えぇっ?! 酷っ! 私の家がご飯先なの知ってて言うなんて!」

お互いの家の門に手を掛けながら、最後の掛け合い。篤樹はなんだかんだ言っても聞きに行けば教えてくれる。寝てるところを起こすと物凄く不機嫌でスパルタになるから、そこだけは気をつけないといけないけれど私は篤樹と別れて自宅の玄関に飛び込むと先に夕飯を食べた。
部屋に戻って、さあ、宿題! と思った所で携帯が鳴った。メール専用の着信音だったから誰かと思ってメールを開いたら篤樹の彼女である梓ちゃんからだった。梓ちゃんは私と仲が良い後輩の友達だった。篤樹と知り合ったのも、私がその後輩に呼ばれて篤樹との約束の日に少しだけ顔を出させて貰ったのが始まりだった。
待ち合わせ場所に着いた時、篤樹を見た梓ちゃんの顔で気づいてしまった恋心。私にはそれを止めることも邪魔することも出来ないから、ただ見ているだけしか出来なかった。最初から対象外、そう宣言されているのに私だけが篤樹を想っている現状に泣きたくなる心を必死に押し隠して後輩の用件を済ませた。
それからだ……登校する時、度々正門で鉢合わせするようになって気付けば梓ちゃんは篤樹の隣に立つようになった。篤樹が変わったわけじゃないけれど、篤樹よりも十センチは低い身長。モデルの様に小さな顔とバランスが取れていて女性らしい曲線を描く身体。並び立つ二人の姿は私のコンプレックスも刺激してくれて、自然と逃げるように先に行くようになった。
その度に、篤樹は何か言いたげな表情をして私を見ていたけれど、何を言われるのかも怖くて気付かない振りで教室に逃げ込んでいた。だから、いつ梓ちゃんが篤樹に告白して付き合うようになったのかはっきりとしたところは知らない。それでも、篤樹がオッケーしたなら大事にされているはずだ。
ぼんやりと、そんなことを考えていてメールを見るのを忘れていたことを思い出し、慌てて携帯を手に取ってメールを開く。文章は今時の子、という感じの絵文字を織り交ぜた文章は可愛くて私のコンプレックスを刺激するけれど、それ以上にその内容に困惑する。

『彩ちゃん先輩へ 今度の日曜日は彩ちゃん先輩、試合ですか? そうじゃなかったら篤樹先輩を誘いたいのですが……。 梓』

なんで、私にそんなことを聞いてくるのだろう。私が試合だったら篤樹も試合の可能性は高いが篤樹はあくまで臨時部員であり駅伝の時に駆り出すだけでシーズン中は自分の本来の部活を優先しているはずだ。休みが合えば応援に来ることもあるけれど、それだってまちまちなのだ。

『梓ちゃんへ 今度の日曜日は競技場練習だけど試合じゃないよ。それに、私に聞かなくても誘えばいいと思う。梓ちゃんは彼女なんだから、誘ったら梓ちゃんを優先するのは当たり前でしょ? 彩』

確かに私は篤樹の幼馴染だけれど、それ以上でもそれ以下でもない。家族同然ではあるけれど、恋人に勝てるような立場には居ないのだ。なのに、どうして梓ちゃんは私に聞いてくるんだろう? これが初めてじゃない。告白をする時にも聞かれて、私は胸を抉られる様な気持ちで頑張ってと応援の言葉を返した。
私にはない、告白出来る権利を羨ましいと心の底から羨みながら……。
返事を返してからしばらくまったけど、梓ちゃんからの返事は返ってこなかった。私からの返事で納得したから篤樹にメールを送ったのかな? そう思うとまたズキリと胸の奥が痛んだけれど、気付かない振りで宿題を広げた。幸い、今日の宿題に苦手な理数科目はなかったので篤樹に聞きに行く必要はなくて内心ほっとしてしまう。
宿題を片付けて、明日の用意をしながら私はチラリと携帯を見た。私なんかよりずっと女の子らしくてかわいい梓ちゃん。それなのにあんなメールをしてくるということは、きっと、多分、今が潮時なんだろう。いつだったか、大分前にした篤樹との約束は、やっぱり守れそうにない。
小さくため息を吐いて、私は携帯をぱちりと閉じる。部屋を出て、母さんの姿を探すと台所で後片付けをしているところだった。

「母さん、私明日から少し早目に家を出るから」
「なあに? また朝練とかなの?」
「もう朝練は終わったけど、ちょっとやりたいことがあるの」
「そんなこと言って、貴女が陸上でどれだけ出来るのか知りませんけど、女の子らしく文化部にすればそんなに早く出ていくことも……」
「母さん! 陸上している女の子はいくらでもいるでしょ! そんなことじゃないの!」
「……わかったわ、勝手になさい」

私は母さんの小言にうんざりしながら遮ると、とにかく明日から早く出ることを承諾させてさっさと台所から逃げた。母さんは男の子が続いた子供の中で唯一女の子だった私に自分の理想を押し付ける。私は母さんが望む様な可愛らしい女の子になんてなれないのに……。
自室に逃げ帰って扉を閉めるとベッドに潜り込んだ。いつまで経っても私自身を見てくれず、否定しかしない母さんに泣きたくなって、声を押し殺す様に枕に顔を押し付けて零れる雫を吸い取らせる。お風呂も済ませたし、このまま寝てしまおう……そう思って枕に顔を押し付けたまま目を閉じた。

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