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長い夏が終わり、急激に冬になり始めた気候。
そのほんの隙間に出来た秋にその身を彩る広葉樹。
― キミオモイテ・・・・
とある丘の上、暮れる夕日に身を染めながら、紅の葉を茂らせ
優に100年は経っているように見える椛はあった。
幾歳もその丘から、ただ一点を見つめているかのように
柔らかく時を受け止め続けた椛。
「・・・・・・・翁。」
ふと、一瞬の秋風と共にその椛の下に現れたのは男性とも女性とも付かぬ
人間が一人その葉を見上げて親しみを込めて呼ぶ。
するとふわりと葉が揺れ、根元に一人の老人が現れる。
―よう来た、よう来た、ハナウタイよ。
ハナウタイ。
そう呼ばれた男は、現れた老人に柔らかな笑みを湛えて礼を取る。
「私をお呼びですか?」
―そうじゃ、そうじゃ。我らの言の葉を伝えるハナウタイよ。
嬉しそうな声が男に伝わる。
やっと去れる、やっと逝ける、やっと・・・その繰り返しが男の中に木霊する。
永いときをその丘でただ一人を待ち続けていたのだと翁は言う。
目を細め、ハナウタイと呼ばれる男に悦びを顕わに手招く。
「どなたに・・・?」
―君想いて、我ここで待つ・・・・君、生きて逝くる時、我も共に
問い掛けたハナウタイの男に、詩と共に過去が過ぎる。
ハナウタイの知らない椛の記憶。
かの人は100年を越した翁が恋をした大切な女性。
「・・・・お迎えにあがりましょう。」
彼女は己の生を生き抜き、今日去るらしい。
翁の想いに緩やかに腰を折った男は次の秋風と共に掻き消えた。
―ミーン、ミーン、ミーン・・・
夏が明けたばかりの残暑の中、最後の蝉が鳴き続ける小道。
緩やかに続くその小道は少しの斜面を形成し、その上に在る椛に続いていた。
誰ともなく開放されている丘の上、時折その脇を通り過ぎる人間は在れどただそれだけ。
気付けば椛と共に生きてきた己に気付く者など誰一人居ないと思っていた。
別に、それで構わなかった・・・流れ行く時の中で懸命に生きるヒトが好きだった。
それを眺めて日々を過ごしていた。
けれど、それはある日自分の下に訪れた少女を目にした瞬間変わった。
最初は気が付かなかった。
その少女が自分に気付いている・・・などとは。
ただ、熱心に見上げてくる少女に、そんなに椛が好きなのかと思い
その年は例年に増して念入りに、己である椛の葉を綺麗に色付けた。
全ての葉が紅く、見事に染まった様を見せれば少女は手を打ち喜んだ。
付いてきた男はそんな少女を苦笑して眺めていた。
1年・・・2年・・・それから毎年、色付く頃には必ず訪れる少女が出来た。
5年・・・6年・・・徐々に一人で訪れるようになる少女は、気付けば美しい女性になっていた。
「・・・・・おじいさんは、ずっとココに居るの?」
ずっと物言いたげに椛を見上げていると思えば、唐突に掛けられた言葉には肝が冷えた。
―わしが見えるのか・・・?
思わず声を返したが、聞こえはしないらしい・・・。
一言、二言、言葉を掛けてくる大人の女性になった彼女に聞こえぬと承知で言葉を返した。
口が開くのは判るらしい、耳を傾けるが言葉は届かず互いの間に何も訪れなかった。
けれど・・・何故か気付けば彼女を意識し、紅葉の時期にはどの椛にも負けぬようにと
せめて彼女がこの色を楽しめるようにと精一杯色付けた。
12年目の秋、彼女は少し寂しそうな表情を見せて告げた。
「お嫁に行くの。行った先からは少し遠くてもう来られない。
でも・・・・いつか必ずもう一度・・・・。」
彼女が泣きそうなのを耐えてそう告げたから、まだ落ちる時期ではないのに
己の枝を揺らして1枚だけ葉を落とした。
その年、一番綺麗に色付いた葉を1枚だけ、彼女の伸ばした手のひらに落として
いつか必ず・・・その言葉を約束として覚えた。
けれど、時は過ぎ遠く離れた彼女は忙しさに自分の時間すらままならぬ様子だった。
落とした葉を大切に持ち帰った彼女は、それをずっと持ち歩いてくれていたようで
秋になると風が伝えてくる彼女の様子に心配したり、喜んだりと心躍らせた。
そうしてまた60年ほどの年が過ぎただろうか・・・
「翁、お連れ致しましたよ。」
月が満ちて辺りを照らす中、男の声に呼び戻されて過去から意識を戻せば
男の横にはあの懐かしい日々恋焦がれた彼女が、あの時のまま経っていた。
『・・・・おじいさん?』
初めて声を掛けられたときより、少し落ち着いた大人の女性の声が届く。
―楓さん、よう来た、よう来た。
悦びに打ち震える胸の内をそのままに、初めて地面に降り立てば彼女は驚いた表情を見せた。
何かやったかと首を傾げれば、姿が・・・と不安げな声が返った。
「翁が貴女に似合う歳を望まれたのでしょう。いつかもう一度・・・その約束の為に」
彼女の横に立つ男・・・ハナウタイが彼女を安心させるように告げた言葉に漸く理解する。
自分の顔形など見たこともないわしには判らぬが、どうやら彼女が見ていた時とは姿が違うらしい。
『なら、おじいさん・・・じゃ、失礼ね。お名前は?』
納得したらしい彼女の顔から不安が消えて、初めて交わす言葉への喜びが浮かぶ。
そうして尋ねられた内容に首を傾げてしまうのは、名前などありはしないためなのだが
聞いたらいけないことだったかとすぐに曇る彼女の表情に、苦笑が零れる。
―名はない。好きに呼ぶと良い。
そう言えば、驚いたように目を瞬かせてから柔らかな笑みが彼女の顔を彩る。
まるで紅葉の様に頬に淡く朱が上るのを見るのは酷く心地が良い。
―もう一度、君に逢いたいと、君に見せたいと、そう願っていた。
告げれば彼女の顔に再び哀しみが浮かぶが今は見るまい。
彼女に背を向けて己の本体である椛を見上げる。
秋風が吹き始めたばかりの今、本来なら彩るはずのない緑の葉が下から上へと
徐々に紅く染まっていくように力を入れる。
『・・・・・紅葉の葉が・・・・!』
彼女の驚きの声を背に、全てを染め上げて振り返ればもうその表情に哀しみはなかった。
―待っていた、この時を。
―君と共に在りたいと、本当はずっと想っていた。
―叶うなら、君と共に逝きたい・・・。
一歩近づいて、彼女に手を差し出す。
そうして彼女が去ってからずっと心に残っていた想いを言の葉に乗せて送る。
もう何にも縛られるものはない、共に逝こう・・・と。
『・・・・・はい。』
少し迷った彼女が、ハナウタイを1度見上げてから確かに頷いた。
伸ばされた手をやんわりと掴めば、彼女から一歩近づいた。
もう一歩、自ら進めば腕(かいな)に抱くは彼女の温もりで・・・。
「よき旅路を・・・・」
この幾歳、何度彼と逢っただろうか・・・・。
掛けられる言葉に万感の想いが溢れるが、静かに微笑む男に思いつく言葉など1つしかない。
『ありがとう。』
腕に抱いた彼女から、涙に滲む声が漏れた。
男に向かって告げられる言葉に、自然と頷き同じように言の葉に乗せる。
―我らの言の葉をうたい、紡ぐハナウタイ。そなたに祝福を・・・
月の光が翁と女性を照らし出す。
幻想的な光景に、静かな微笑みを浮かべて見送るハナウタイ。
―君想いて、我ここで待つ・・・・。君生きて逝くる時、われも共に・・・
銀色の海に翁と女性の姿が飲み込まれる寸前、翁にハナウタイと呼ばれた男は
緩やかに腰を折り2人の逝く先の幸福を願って礼をとった。
そうして一陣の風が吹く。
その丘には今年で最後になる綺麗な紅に染まった紅葉が1本、立つのみで
男の姿は掻き消えていた・・・・。
誰も居ない、鳴き始めた鈴虫だけが知る秋の一夜。
***+*** あとがき ***+***
どうも、相変わらずな支離滅裂加減に自分でもあきれ果てましたorz
最後までお読みくださった方居ましたらありがとうございます!!!
上手いこと書きたい内容が纏まらないっていうTへT
次こそは・・・次こそは頑張ります><。
ちなみに、紅葉は「紅葉するもみじ」と、両方を含めてみました^p^
紅葉の片恋・・・の、ような両思いのような・・・・。
人と植物は相容れないモノですが、癒されたりしますよね。
木に纏わる怪談などにも人を待ち続ける植物の話などありますよね。
そんな話を怪談ではなく綺麗ごとだけで纏めてみたい、という無謀シリーズw
紅葉はどうしても長老とか翁というイメージが強かったので
あえて翁とか昔のおじいさんっぽい話口調とかにしてみましたが・・・
途中で視点変わったからおかしいかもです・・・。
反省点色々orz 伝えたい内容がないっていうのが何とも・・・。
少しでも楽しんでいただけたら幸いです!
お題元:忍題β様
他にも素敵な作品一杯です!!是非是非閲覧下さいv
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