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イイ肉の日は三蔵様の誕生日!ということで、小話を一つ。
カップリングなし、まだ幼名の紅流時代のお師匠様とのいち風景。
「お師匠様、お師匠様~?」
冬が始まったばかりの広い寺の境内で、済んだ子供の声が響く。
カサカサと色を変え落ちゆく広葉樹の葉を踏みしめて子供が捜すのは
物心つく前より親代わりになっている高名な僧侶の姿。
「紅流、そんなに叫ばなくても聞こえますよ。
アナタの声は生きた声ですから。」
子供が林に足を踏み入れようとしたところで、不意に後ろから声が掛かった。
振り返ると視線の先には豊かな長い髪を編んで肩に流した男性が
優しい笑みを浮べて子供を見つめている。
「お師匠様!どこに行ってたんですか??皆が探していましたよ。」
どこからともなく現れた男性に、ほっとしたような呆れたようななんとも言えない
複雑な表情を浮べた子供が問いただす。
男性はその様子に優しい笑みをさらに深めるとすみませんね、と声に出す。
「今日は大切な日ですから、ちょっと用事を済ませに街に下りてたんですよ。」
街にという言葉に、いつもは自分を連れて行くのに何故?と言いたげに
けれどそれを口には出さずに不満そうな表情を薄っすらと顔に登らせた子供は
それを押し隠してそうですか、と頷いてから首を傾げる。
「大切な日?今日、何か忘れてはいけない用事などありましたか?」
男性の用事などは大体把握しているのに、一体何を忘れているのだろう?と
不思議そうにした子供が男性を見上げると風が穏やかに2人の間を吹きぬけ
子供の陽光を弾いて煌く柔らかな金の髪を揺らしていく。
「おやおや、やっぱり忘れているんですね。
紅流にとっても大切な日なんですけどねぇ・・・・お誕生日、おめでとうございます。」
子供の疑問にクスリと笑いながら、袂に隠していた包みを取り出すと
男性は大切な日である理由の言葉を告げるのと同時に差し出した。
その言葉と包みに驚いて目を見開いた子供は、暫く男性と包みを交互に見た後
普段は見せない子供らしい笑みを浮べて礼と共に受け取った。
「こんなことしなくても良いと昨年も言った気がするんですが・・・。」
子供らしい笑みはものの数瞬で消え去り、子供は眉間に皺を寄せて不機嫌を顕わにする。
男性が居ないことで散々問い詰められて面倒な思いをしたのに・・・と溢さなかったのは
嬉しさからゆえなのだが素直でないのもまたこの子供の子供たる面であり、男性も
それは知っているためにすみません、ともう一度謝罪を口にすることで機嫌を取る。
「私には大切な日なんですよ、貴方と出会えた、貴方が私を呼んでくれた記念日ですからね。」
だから、今は喜ぶ振りをして下さい。と、素直じゃない子供に頼むように言う男性と
それに仕方ありませんね、と言いながらも嬉しさを滲ませる子供はもう一度吹いた風に
知らず視線を空へと向ける。
空は遠く、雲ひとつない秋晴れで薄い蒼に生える紅葉の黄色やオレンジが
男性の肩に流された豊かな髪と馴染んで、温かく感じると子供は目を細める。
「お師匠様、ありがとうございます。
俺の声を聴いて、見つけてくれて。」
何よりも嬉しいのは、プレゼントではなく貴方に出会えたことだと
普段は素直に口にしない言葉を感謝と共に告げた子供に男性は嬉しそうに笑みを見せ
手を伸ばすと珍しく嫌がる素振りを見せない子供の髪を優しく撫で梳いた。
そうして、2人は暫く穏やかで優しい時間を過ごし、子供以外の寺の住人が
男性を探す声が届く頃漸くそちらへと移動していった。
秋も深まり、冬が始まったばかりの11月末。
子供が2度目の誕生をした日の出来事である。
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